舟を編む

石井裕也の『舟を編む』を観ました。
シナリオが拙いな、ということが気になってしまって、あまり内容が身に入って来なかったかも……。


出版社の辞書編集部で、ベテランの編集者が辞めるにあたって、急遽異動させられてきた馬締光也まじめみつや。彼を中心に、十数年の年月を掛けて、一編の辞書を一から編む物語です。
タイトルは、作中の、辞書の監修者が、辞書を「言葉の大海原を渡る舟」に喩えたところから来ているぽいです。


ネタバレします。


この話でいいのは多分、辞書を編むのに、時間がたくさん掛かるということが分かること。
物語の始まりが1995年で、終わりが、ええっと、2008年くらい? 辞書を一から作るのは、それだけ掛かるということが分かった。そりゃ、一年とか二年とかでできるとは思っていなかったけど、具体的に何年? というのは、考えたこともなかった。
で、そうなると、当然の流れで、人が辞めていったり、亡くなったりする。新しく入ってくることもある。


(馬締の)先輩社員が異動になる。作中では「辞書編集部は金ばかり掛かって何も産まない」ということで辞書編纂にストップがかかりそうな時、続ける条件として先輩社員か馬締のどちらかが異動することになり、先輩のほうがそうする。これはそういうことがあればドラマチックだからということだと思うんだけど(あと、ストップをかけようとした人を嫌な奴として描いておく必要があったんだろうとも思う、終盤の差し入れシーンが利くように)、そうではなくても。
辞書の監修をしている先生が、死ぬ。作中では食道癌で、辞書完成の直前に死ぬ。これも、ドラマチック。
でも大事なのは、単に、辞書一つが出来るまでには、こういったことが起こるのは、ドラマ(映画、小説)だから起こるのではなくて、もう、必然として起こるのだ、ということなんだろうと思う。それを伝えようとしている作品なのかどうかは知らないけれど(たぶん違うけど)、僕はそれを感じました。


で、シナリオ。まあ、演技とか他のもあるけど、シナリオ。
拙い。


シーンの繋ぎが拙い。カットかフェイドか、ディゾルブか、といった話ではなくて、意味的に拙いです。でも、その話をする前に、たぶんシーンの中の要素数の話をした方がよさそう。
昔、たまたま『Vガンダム』と『ガンダムX』を同時に観る機会があって、その時に、『V』の方は飽きずに観られるのに(結局飽きて最後まで観てないけど)『X』の方はすごく間延びして退屈に思えて、何だろなあと思ったことがあった。考えてみると、一つのシーンに、『V』は複数の要素が入っているのだと気付いた。どちらも、複数の人物のそれぞれに物語が存在する作品だけど、『V』では一つのシーンでその幾つかを同時に描いてしまう(描けてしまう技量が必要で、誰にでもできるんではないと思うけど)。『X』は、一つのシーンでは、一人のドラマの、一回分のステップだけ、進める。これはまあ、クライアントが想定する視聴者層*1が低年齢の人達で、その人達向けの(と思い込んでいる)演出をしてくれ、という要求があった可能性もあるので、作っている人が悪いわけではないけれど、少なくとも僕は「『X』の方は間延びしているなあ」と感じた。
で、『舟を編む』はまさにそんな感じだった。「はい、ここは、こういうことを説明するシーンなので、それだけやりましょう」。で、例えば思わせ振りなシーンの終わり方をしてから別のシーンを挟んで後で続きをやった時に「あ、そういうことだったのか」と思わせる程度の工夫すら(殆ど)無い(程度の話であって、別にこのやり方をやれということではない)。シーンが、完全に独立して、それを順番に並べられている感じ、お互いに、こー、がしっとつながった感じがなかった。がしっとつながった感じというのが、以前のシーンの話をさり気なく掬うとか、そこで完結しないで視聴者にはっきりとは分からない部分を残しておく(数シーン先で回収する)とかすれば、それだけでそのシーンの要素は二つになるのだから、それくらい、サービスしてくれてもいいんじゃないかと思った。
まあ、つまり、退屈だったわけです。


映画化するくらいだし、本屋大賞を獲るくらいだし(賞の傾向とレベルを知らないけど)、原作は面白いんだろうとは思うけど、こういう、あまりの拙さに、うまく入っていけませんでした。残念。
僕、別に、多少拙いくらい、大丈夫な人間なんだけどなあ。

*1:実際の視聴者層とはずれている……とかいう話はここでは関係ないか。

「やりがいのある仕事」という幻想

森博嗣の『「やりがいのある仕事」という幻想』を読みました。

これまで森博嗣のエッセイは読んだことがなかったけれど、森博嗣で、このタイトルだから、読んだ本。

タイトルから想像していた物とは全然違ったけれど、面白かった。半分くらいは同じように思っていてそうだよねと同意する話で、半分くらいは、さすが思考が鋭く、なるほどと思う内容だった。