恐怖

今日は雨。
高校生の時くらいまでは、雨が降る日は何と無く楽しいものでしたが、最近はどんよりしてしまいます。

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今日はつらつらと恐怖物語を考えていました。

世界は暗く、光の全然見えない時の話です。
ソレは最初、善意のものでした。
皆の悩みをよくよく聞いてやり、そしてそれ以上そんなことで悩まないように、ちゃんと、その悩みを退治してやっていました。
「皆、僕の言うことを分かってくれないんだ」「よしじゃあ、僕が代わりに伝えてあげよう」
「よく、通り道を塞がれちゃうよ」「よしじゃあ、それを飛び越えられるジャンプ力をあげよう」


皆は大喜び。次々とソレの所へ行っては、色々な物を貰いました。
ソレの周りにはいつも人が集まり、一つアドバイスを貰う度に、感心しながらソレを称えました。


ところが皆は気付きませんでした、ソレには陰があり、何か貰う度に、自分の大事なものが、一つ、壊れてしまっていることを。
最初に気付いた人が言いました。「懸命なソレのことだ、そのうち気付いて何とかしてくれるだろう」
ソレは自分では気付きませんでした。
次に気付いた人が言いました。「このことをソレに教えてやろう。そうすれば対策を立ててくれるに違い無い」
ソレに声は届きませんでした。
また次に気付いた人が言いました。「もう、はっきり言わないと。皆で一緒に行こう」


ソレの周りには、ソレの恩恵を沢山受けて、もう、大事な物を無くしてしまった人がたむろしていました。
気付いた人々は、ソレに対して言いました。「もうそんなことは止めてくれ。俺達の大事な物を奪うのは止めてくれ。色々いいやり方やいい物をくれたことには感謝している。でももう、自分達の力で頑張るから、だから、お前も自分の為に生きるといい」
ソレには、彼等の言っていることが分かりませんでした。でも、ソレは善意のものだったので、自分が何かいけないのかしら、と、困ってしまいました。考えました。


ソレの周りにたむろしている人達が言いました。「止めろ、お前達、帰れ。ソレは今までずっと、いいことをしてきたんだ。俺達はソレがいなくちゃやっていけない」
彼等は、ソレから色々な物を与えられ、色々な物を壊され、そして、少しずつソレへの愛情を植え付けられていたのです。
でも、ソレもそんなことは知りません。だから彼等の愛を本物と思い、自分のやってきたことに自信を持ち直しました。


もうソレは、自分を愛してくれる人以外の話は、聞きません。
そういった人達も、やはり、善意で、自分達の愛情は本物と信じて、色々な人にソレを紹介しました。
大抵はすぐに、その危うさに気付きましたが、でも何割かは、やっぱり、ソレへの愛情に縛られてしまいました。


やがてソレは、皆と連れ立って、どこかへ行ってしまいました。