夢見る機械

鍵を家に忘れて出掛けてしまいまして。
帰るのが夜中だったので家族を起こすにも気が引けて、漫画喫茶で一晩過ごしました。
そこで読んだ諸星大二郎『夢見る機械』。
いや、この人凄いなあ。面白い。多分、作者は、変な人でしょう(誉め言葉)。


八篇の短編が収められていて、(本人曰く)SFを集めた本です。
二篇、紹介してみましょう。

  • 食事の時間

上流階級の子供だった主人公が、父の自殺のためにスラムで暮らさなければならなくなるところから物語は始まります。
上流の(元)自宅からスラムへと向かう途中、中産階級の人間が行くなと警告してくれるも、母親の「これからはスラムで一人で暮らせ」との言い付けを守ってスラムへ向かう少年。
スラムでいくと、そこの住民に襲い掛かられます。「上流の子供だ たべ物だ!」
連中から逃げていると、親切な子供が助けてくれますが、その代わりと言って帽子を要求されました。何をするのかと思うと、目の前でむしゃむしゃとその帽子を平らげ、「やぱり上流階級のものはうめえや」
その後、彼のスラムの仲間の所へ案内されますが、皆の目に止まった瞬間、服から何から全て食べられてしまいます。
しかし少年は元は上流の子、そのままでは上流や中流の廃棄物を食べられないので、“虫”とやらをうえつけてもらわなければなりません。
そのために生物化学省という所へ向かうのですが、うえつけの前にハプニングが起こり……。
オチが素敵な作品です。

  • 地獄の戦士

無軌道な若者が徒党を組んでひたすら街を荒らす話。
強盗、殺人、強姦……何でもありです。
しかし嫌がりもせずただ静かに犯される女性。「人形(ダミー)じゃねえのか?」「普通の人間とどう違うんだ?」「かわらねえよ どこもな…」「つまらねえな…」
どうやらこの社会は殺してはいけない“人間”と、彼らが何をしても反抗できない“ダミー”というので構成されているようなのです。
ますます面白くない若者達、車で跳ね飛ばしたり、銃を乱射したり、皆皆殺して回りますが、やっぱり誰も抵抗しません。
そうして暴れまわるうち、やがてこの社会の重要な秘密を知ることになりますが……。
確かにSF。面白い。センチメンタルな結末です。


「あとがき」がとても普通で、かえって衝撃を受けてしまいました。
あとがきなんて無いか、あっても作品と全然関係無いことを書くと思っていたのに。


こう、物語というのは、技術も大切ですが、やっぱり人間の“想い”から産まれるんだなあ。
諸星が地下街を嫌っているらしいことがよく分かる本でした(笑)。
いや、勿論、技術もある人なんですけどね。「猫パニック」なんて、感心しましたよ。
不謹慎かも知れませんが、ここまで負の感情を溜め込める人は、羨ましいなあ……。