カムイチカップのお話

鳳鳴舎の『二つ民の物語』をプレイしました。


このRPGは、西洋風ファンタジーの文明が、アイヌ民族をモチーフとした民族を発見して、侵略して、少し経った、共存を始めた頃の時代を遊ぶシステムです。
ルール上の特徴は「民族値」*1という物。各民族としてのアイデンティティを表すらしく、例えば民族値が1ならジェスチャー程度しか通じない、といった具合です。
各キャラクターは西洋風ファンタジー側、「新しき民」の民族値と、アイヌ民族風側、「古き民」の民族値を持っていて、その合計値は、一定です。セッション中、「古き民」の民族値が上がると、それにつれて「新しき民」の方は下がってしまう、というルールです。


このシステムの舞台設定を聞くと、何だか民族対立を扱ったシナリオしかできないのかな、という印象で、それは好きなのでいいのですが、システムとしてはやり続けるのに困難を感じる物でした。
しかし、今日のセッションは、そんな心配をいきなり乗り越えてくれたシナリオによる物でした。
GMに拍手を送りたいと思います。



焚き火のが焚かれている所に一羽の梟*2が舞い降りる。
その梟は魚を一匹啄ばむと、人の姿に変わり、礼を言う。
「魚の礼に、一つ、話をしてやろう」
そんな冒頭で始まるセッション、雰囲気出ているなあと、感心しました。
この時は、感心するだけ、でした。


その話の登場人物として語られる、一人の「古き民」と、二人の「新しき民」。
商人の護衛で北へ向かっています。
と、突然襲い来る山賊。
新しき民の剣士カイリス・ソルヴィンの攻撃がめちゃくちゃ強くて、一撃で一人を屠り、その直後やはり新しき民の巡察吏マイメロゥ・マリラーンドが、持ち前の「威圧」で相手を黙らせて、呆気無く決着が付きます。
しかし。
ひゅんひゅんと飛来する矢。
それは、山賊に襲われている我々を助けようと、近くの古き民の一団が放った物でした。
折角分かり合えそうだったのに。
不満を持ちつつも、取り敢えず彼らの集落に案内されました。
ここは大きな狼をカムイとして崇めて、その教えに従っているらしく、集落のうちにも数頭の狼が暮らしています。


しかしどうも妙です。
集落は家が少ないようですし、若者ばかり、歳を取った人がいません。
古き民の巫女であるパリララが、長に尋ねてみるのですが、どうにも要領を得ない言葉ばかり、何か隠しているのでしょうか。
そんなことにはお構い無く、マイメロゥは墓を掘って、山賊の死体を弔いました。中々美しい光景ですが、プレイヤーには、「これで、少しでも新しき民の勢力地域が増えれば」という打算があったようです。
この世界、それぞれの場所には、新しき民の場所か、古き民の場所かが定まっています。
この集落は古き民の地、街道は新しき民が作った物だから彼等の地、というように。そして、それぞれに対応した神の力しか、引き出せません。古き民の集落からは、古き民のカムイ達の力が引き出せるわけです。
そこに、新しき民の墓を作ることで、自分達の勢力範囲を伸ばそうとマイメロゥのプレイヤーは考えたようです。


夕食も長の家でご馳走になるのですが、新しき民の二人は、その食事に、おや、と思わされます。
味が、まるで自分達の文化圏での食事のよう。
古き民のパリララも同じことを思ったようで、彼女は逆に嫌な顔をします。
やはりこの集落はどこかおかしい。
我々が「北の町に行くつもりだ」と言うと、執拗に「行かない方がいい、行くにしても、日の沈まないうちにまた旅立った方がいい」と忠告してくるのも、益々怪しい。
更に、人目に付かない時にパリララが、集落の少年に「僕も旅に連れて行ってくれ。そう、長を説得してくれ」と頼まれます。
パリララは引き受けるんですが、残念ながらこの試みは失敗して、翌朝やはり、商人を含めた最初の四人だけで旅立ってしまいました。


旅立って今度は、何のトラブルも無く目的の町に到着。
村の人は皆を歓迎してくれます。
古き民の忠告があったのですが、少し相談した後、やはりPC全員、この村で一晩を過ごすことにしました。
但し、今晩は寝ずに町を歩いて警戒する、ということにして。
予想通りその晩、事件が起きます。昨夜泊まった集落の古き民が、町の人間を皆殺しにしたのです。



「と、こんな話だ。どうだったかね。何か教訓は得られたかね。正直、わたしは、この話の古き民はどうかと思うんだが……」
そう梟は言い残し、また元の姿を取って飛び去った。
そう、今までの話は、全て梟の話したことで、登場人物だった我々は、実際には話を聞いていた人間だったのです。
変化したダメージや民族値は、そのままでしたが。
梟が話していたのは、商人を護衛しての旅の途中、山賊に襲撃を受ける前の晩でした。


単なる民族対立モチーフのシナリオでない、面白いシナリオでした。


「二周目」で我々は、集落は一体何がおかしかったのか、何故新しき民の町を襲撃したのか、探りました。
結果、狼のカムイに従っているのが悪いだろうと予想しました。
集落の人は狼に従って町を襲ったそうですし、今までもそうして新しき民を襲って物を取ってきたのではないか、と思えたのです。それならば、食事が新しき民の味付けであることも説明できます。


「わたしたちは、貴方方の襲撃は町に知らせないではいられません。そうなれば大きな被害を受ける筈。だから、止めてもらえませんか」との説得に長は、「狼のカムイの命じたことだから」と、聞き入れる様子はありません。
もうここまで悪事を重ねては、死後も不幸が待ち受けているだけ、という諦めがあるようです。
「だったら、狼のカムイを殺します」と言っても、「できるものならやってみればいい」と、本当に投げやり。
結局我々は狼のカムイと戦って、殺しました。


大変に面白いセッション。
『二つ民の物語』で、もう、これ以上の物なんて作れないんじゃないかというくらい、よく出来た面白いシナリオでした。
あ、因みに僕のキャラクターは新しき民のマイメロゥ・マリラーンドです。

*1:エスニシティ……いやなんでも。

*2:アイヌ語でカムイチカップ。