はめ込み

多様体論ではimmersionのことを「はめ込み」と訳しています。
まあ今回の話は全然それと関係無いんですが。
五月に発売の『ヴァンパイア:ザ・レクイエム』のサプリメントに『Nomads(ノマド――放浪のヴァンパイアたち)』という物があるんですが、immersionはその中に出てきた言葉です。
(『Nomads』に関しては、「骰子回転劇場・転 日記」を参照:http://www.rollingtheatre.com/blog/041215_2243.php


この本では、ヴァンパイアが何故ノマドになるか、一章を割いて沢山のパターンを示してくれていて、その一つに氏族ごとの事情もあります。
氏族の一つ、ギャンレルの所、p.29に「Full Immersion(完全はめ込み?)」っていう節があるんですが、これは、「ギャンレルが、ヴァンパイアという存在をどう捕らえているか」という項目で、いっそルールブックに載せてくれてもいいくらい、一般性のある話です。
前振りが随分長いですが、今日はそのimmersionの話を。
(ギャンレルについてはThe Wapentake:id:piroki:20040630:p1を参照)
興奮のあまり長く書き過ぎてしまったので、続きは隠します。


ヴァンパイアがどういう存在かには、当然人……血族*1それぞれの考え方があります。
・ヴァンパイアというのは実は人間なんだ。だから人間らしく振舞わねば。
・ヴァンパイアというのは人間とは違う、更に言えば人間を超えた食物連鎖の頂点にある存在だ。過去自分が何であったかなど、早々に忘れた方がいい。
という極端なのに挟まれた、色々の意見があるわけです。
そんな中、ギャンレル氏族の多くは、どこに位置するのか。
「Full Immersion」によれば、


ギャンレルは、呪われし者*2になることは、単に血を飲み陽光を避けるという以上の物だと知っている。それは本質、道徳における根本的な変化である。人間の殻に生まれ、その後それを捨てるべきだということ、新たな生物になることなのだ。感情、経歴、魂は君という殻を脱ぎ捨て、《獣》*3が代わりに入る。
とのことです。この「ヴァンパイアなる状態という真実の中に自己を沈めること」をimmersionと呼んでいるそうで。
ギャンレルは自然や獣性といった物に近しい性質を有する氏族で、人間であったことに固執してはいけない、《獣》をちゃんと受け入れるべきだ、と考えているようです。
その結果、彼女等は安定した寝処、狩場といった物に依存せず、更には都市を離れてノマドになることが多い、ということです。


V:tR』には氏族(生まれ)の他に、似た思想を持つ血族が集まった「盟約*4」もあります。
その一つにドラキュラが作った「オルド・ドラク*5」という物があります。
「ヴァンパイアという存在は進化の過程、人間の次に位置する。我々は更に次の段階を追及する」というような盟約です。
(詳しくはやはりThe Wapentake:id:piroki:20040717:p1参照。「竜の修道会」というのがこれです)


都市で生まれ、都市で育った人間がヴァンパイアにされてしまう。氏族はギャンレル。
直感で「これは人間とは違う状態だ」と悟り、その後オルド・ドラクルの教義を知って「そうだよね。ヴァンパイアという状態を受け入れるべきだよね」と入る。
でも、意外に学術的なオルド・ドラクル内部にも違和感を抱え、独り、都市を離れる……。
というのだと、結構説得力があって、しかも過去があるんで深みを感じられるキャラクター設定になりますかね。
(過去があればなんでも深みに繋がるわけではありませんが)


関係ありませんが、ノマドとしてのギャンレルの箇所、p.30にあった


vampires are paranoid creatures who seek to minimize dangers to their unending Requiem.
(ヴァンパイアというのは、終わりの無いレクイエムへの危険を抑える術を求める、偏執的な生物だ)
って格好いい言葉です。
見下している偏執的という言葉がいい。
あ、レクイエムっていうのは、ヴァンパイアになってからの人生のことです。自分で自分のレクイエムを歌っているのかなあ。

*1:ヴァンパイアが自分達の種を高尚に見せる為の言葉。ヒトと言わずに人間と言うような物。誇張あり。

*2:the Damned。ヴァンパイアが自嘲気味だったりマゾヒスティックに自分達を呼ぶ呼び方。

*3:Beast。血を吸い、陽光を避け、目に付く物は破壊するという、ヴァンパイアの“本能”のような物。人間としての心と《獣》との内的なせめぎ合いは『V:tR』の主要テーマの一つ。

*4:Covenant。

*5:Ordo Dracul。