脱出路

急遽「セッションしたいね」という話になって、『ヒーローウォーズ』のナレーターをしました。

ヒーローウォーズ―英雄戦争 (TRPG series)

ヒーローウォーズ―英雄戦争 (TRPG series)

シナリオは、始めルールブックに載っているサンプル・エピソードの三つ目「赤き木立の魔物」をしようかと思っていたんですが、プレイヤーの強い要望により、JGC2004の参加者へのお土産冊子に載っていた「脱出路」に。
と言うのも……。


(以下ネタバレ)


このシナリオでは、序盤、氏族に伝わってきたらしい地図を実際に、桂令夫速水螺旋人左手で描いた地図を、プレイヤー自身が読み解かなければならないのです。
道や川など、位相しか意味を持たない要素で出来ているならまだしも、奇妙な記号や地名、重要な注釈などが載っているものだから、誤読が大変に危ない。
そもそも、どこが自分達のいる集落なのかすら、容易には分かりません。
あほ過ぎるシナリオです。


でも、内容はそれほど面白いと思えません。
「集落が危機に曝されているので、氏族の宝物と、できれば自分の息子ウルム・ハルギッソン*1を遠縁の氏族まで届ける」という単純な物。
シナリオを読むと、大筋「旅の困難→(主に判定で)解決→困難→解決→……」となっていて、それに族長の息子ウルムが足を引っ張るという程度で、最悪サイコロを振り続けるだけで終わってしまいます。
「蛮族をプレイすることの魅力*2」を巧くプレイヤーに伝える自身が無かったので、尚更。
以前一度やった時も、実際、それほど盛り上がりませんでしたし。


ところがところが。
プレイは思わぬ盛り上がりを見せます。
まず、オープニング。村長に呼び出されるところから。
「(この辺りを支配して税金を回収している)ルナー帝国の徴税吏が襲われた。そして、隣の氏族が、それを我が氏族のせいだと吹き込んだようだ」
ここまで説明したところで、「俺がやった!」といきなり言い放つフマクト/インキンの入信者アーケナ*3
村長でなくGMが、のみならず他のプレイヤーまでも「ええっ!」と言葉が出ません。
しかしアーケナは全然悪びれていない。
この辺からセッションが面白くなってきます。


その後も、ルナー留学から帰って来たという設定のベヴァーラの帰依者ケテル・ラプムルが、ルナー兵との戦闘中、何故か相手と剣と刀で分かり合ったり。
ヴァンガンス信者のルドガは、本当に、飛ぶことにしか興味が無く、自分勝手な行動が目立ったり。
無駄に蛮族的だったり英雄的だったりして、「こんな何も無いシナリオなのに……」と大喜びのナレーターでした。


クライマックスも凄くて。
目指す氏族の手前でルナー兵がプレイヤー・ヒーロー達を待ち構えていて、それを機知を使って潜り抜けるのがシナリオの想定だったんですが……。
あまりにウルム・ハルギッソンを「駄目な奴」として演じてしまったからか、そもそも「氏族を残すかどうか?」で議論に。
そして、アーケナは(猫らしく)決着を見ない議論に愛想をつかします。
「明日の未明に、集落の横から襲撃を掛ける。そっちがどうするかは好きにしろ」そう言い残してアリンクスの相棒リブ*4と姿を消します。一人(と一匹)の襲撃でなど、絶対に無駄死にだと理解しながらも。
それでもケテルとルドガの議論は決着が付かないので、途中出て来た「分かり合っていた」ルナー兵のイーヘ・シー、一旦気を失ってしまったケテルを解放してくれた女フェーオ、更にはアーケナの下を去って来たアリンクスのリブを巻き込んで、最後に、「まずはアーケナを無駄死にさせないように」というところで意見の一致を見ます。
同じ氏族の仲間、更に心を分かち合った友のリブの無言の説得にアーケナは折れ、しかし結局、ルナー兵への襲撃はしないことになりました。
ルナー兵が諦めて去るのを待って入り、その後はそれぞれ、氏族を捨てたり旅にでたり、あるいはケテルは女と暮らしたり……。


単純でしかも面白くないシナリオなのに、プレイヤーがヒーローを個性的に作ったために、大変盛り上がったセッションでした。
シナリオの要請無くキャラクターを作っていて、好きに暴れられると、こういうことがあって、大変好きなんです。
ちゃんとみんなが「どうしたら収拾が付かなくなるか」を分かっていながら。
実際、収拾が付かなくなる「ぎりぎり」のところを、あっちに揺れこっちに揺れて辿っていくのが面白いセッションになるんじゃないかと、最近は思います。

*1:オーランス人・ヒョルト人も苗字を持つんですね。「氏族」って言うから、無い物だと思っていました。浅学。

*2:ヒーローウォーズ』のプレイヤー・ヒーローは、皆蛮族です。ケルトヴァイキングをモチーフにしているんでしょうか? 全員が『ヴィンランド・サガ』を読んでいれば楽だったのですが。

*3:プレイヤーの手元には『クリスタニアRPG』のワールドガイドブックがありました。グローランサをやる時にクリスタニアネタを入れるのは、クリスタニアが可哀想過ぎると思います(笑)。僕もクリスタニアのマスタースクリーンでヒーローウォーズをやったことがありますけれども……。

*4:リア。