リズム

最近、小説など物語を、プロットと登場人物でしか見ていなかったので、一つにはその戒めとして手にした鴻上尚史の戯曲『トランス』。

トランス

トランス


高校以来、数年ぶりに再開した、男と女とおかまの三人。
でもそのうちの一人、男の立原・雅人は心の病を患っていて、時折、自分でない天皇になってしまいます。
そして、段々と「気が付いたら時間が過ぎている」間が長くなっていく、と、行った病院に偶然いた精神科医の女紅谷・礼子に告白します。
それとはまた別な所で、雅人を想っている気配が見え隠れするおかまの後藤・参三とも再開し、ドラマが展開していきます。
段々天皇になっている時間が長くなっていく雅人を中心に、主治医の礼子とずっと付き添う参三はやがて疲れて、段々自分をさらけ出し始めます。


というお話。
舞台演劇は、テレビや映画と違ってリアリティという物が面白い所に存しているらしく、セットが無くても段々と役者の見ている物を観客も見始め、そして、また役者の台詞によって、はっと自分達が観客であることに気付かされます。
そのスイッチ・オン/オフが滑らかに/急激に行われて、心地よい眩暈に襲われます。SF短編のような。
読んでいて心地がよい。乗り物に乗っている感じです。


それからリズム。
元々戯曲を読もうと思った一番の動機がこの、会話のリズムを楽しもうと思ったからで。
後半とか、結構ややこやしいことを登場人物は話している筈なのですが、するするすると読み進んでしまいます。
相当に推敲を重ねられたことと思います。


今ちょっと仲間と小説を書き合おうとしていて、それで手が止まって『トランス』を読んだんですが。
読み終えた時にはリズムの「レール」のような物に乗っていて、レールが無くなっても慣性ですーっと、内からセリフが出てくるんですね。大変助かりました。流れ、という物の持っている力なんでしょうね。なんて白々しいか。
と言っても、小説の設定やプロットがまだ未成熟なんで、一場面、一つのやり取りだけ、テキストファイルに塗り付けて終わってしまいましたが。


読んでいてぞくっとする場面が何箇所かあって、これは舞台で観たい。
どこでやっているかな。今はもうやらないのかな。