小さな英雄たちの、小さなゲーム。

「このゲームは、普通の猫になって遊ぶゲームです」と、ゲームマスターは、嬉しそうに言いました。
「《尻尾》の能力値は、魔法を使う時に使います」と、ゲームマスターは言いました。「普通の猫だから、みんな、魔法が使えます」


『Cat - A Little Game About Little Heroes.』というゲームを、プレイしました。
http://www.wicked-dead.com/cat/
猫をプレイする、ただ、それだけのゲーム。


それだけの?


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とある街。
この街に立ち寄った四匹の猫は、同時に、ある交差点で、顔を合わせます。
僕のキャラクターはワガハイ。人間からはナツメと呼ばれ、誰にも明かせない真の名前を、ここでだけ明かしてしまうと、ブンガクと言います。


このワガハイ、好奇心旺盛と言いますか、空気が読めないと言いますか、気になった物はすぐに追い駆けてしまうので、あまり、他のプレイヤーキャラクターと一緒に行動しません。ゲームマスターにとってもプレイヤーにとっても、困り者です。


実際、四匹が互いに言葉を交わして、よく知り合う前に、そこを通り掛かったデスフェイスという猫を追い駆けて「第二倉庫」とやらへ、一人(一匹?)向かってしまうのです。
横断歩道を渡るのに腐心して、九つしかない《命》の一つを削ることで自動成功を得てまで。そんなにデスフェイスを気に入ったのでしょうか?
迷惑そうにするデスフェイスに全く構う様子も無いまま、厚顔無恥にもワガハイは第二倉庫へ「デスフェイスの知り合いです」と言い張って入り込みます。


そこには街じゅうの、と思えるほど多くの猫が集まっていました。
リーダーらしい猫に挨拶して聞く所によると、今日はみんなで一緒にご飯を食べる日なのだとか。
隣で寝ていた猫が「レッドテイルが来てないな」と呟くのを聞いてワガハイは、食べさせてもらうお礼に、と(勝手に)自分がレッドテイルを連れて来ることを、請合ってしまいます。
他の猫たちは、「まあ猫だし」と、来なくてもいい雰囲気なのに。


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街を歩いていたワガハイの「食料が貰えるぞ」という言葉に誘われて、レッドテイルを捜す四匹の猫たち(PC)。
見付けたのは一軒の家。
そこに住んでいたのは、全身薄赤い毛の猫でした。
「あなたがレッドテイル?」
「いいえ。わたしはミリー。ここの住人には紅葉って呼ばれてる。レッドテイルは、前の紅葉だね」
はてさて。猫たちは困ってしまいます。
レッドテイルを捜す手掛かりは他にありません。このままでは、食料が貰えないかも。
でも、ワガハイは、一縷の望みを抱いて、「第二倉庫」へと戻ることにします。「レッドテイルはいなかった」ということを伝えても、食料を貰えるかも、と考えたからです。
最初から、レッドテイルを連れて来たら食料をくれという交換条件を提示したのは、ワガハイだったのですけどね。
四匹のうち二匹は「後から行く」と、その家に残りました。


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「第二倉庫」では四匹全員が歓迎されて、ちゃんと、食料も貰えました。
やっぱり、「レッドテイルを連れて来ないと貰えない」というのは、ワガハイの早とちりだったのですね。
みんなでわいわい、にぁにぁ、団欒します。
その合間に、街に住む猫から出た言葉。
「レッドテイルは、駅に行っているんじゃないかな」
ワガハイは最後まで捜し切れなかったのが悔しかったのか、雨の中、駅まで、レッドテイルを迎えに行く、と言い出します。
他の猫 「俺たちはこっちにいるぜ。レッドテイルの家のじいさんに、“印”を付けて来たんだ。今夜じいさんの夢に入ってみる」
ワガハイ 「どうせ吾輩は魔法は使えない。駅に向かうよ」


夢の世界の支配者たる猫ならば、人間の夢に入るなんて簡単なこと。
おじいさんの夢の中で、レッドテイルが飼い猫でなくなってしまった理由を、探ろうと考えたようです。


一方駅に行ったワガハイは、簡単に、雨の中人通りを眺めるレッドテイルを見付けられます。が、レッドテイルは「第二倉庫」にも、おじいさんの家にも帰ろうとしません。
どうして?


夢の中に入った猫三匹の前には、ダンジョンが、現れます。
おじいさんの夢の中には、一人、また一人と立ち去って行く家族。一面紅葉のように真っ赤な部屋。犬。おじいさんと一緒にいる女の子がいました。そして、おじいさんが飼っていた、今では死んでしまっている、「最初の」飼い猫・紅葉が、牢屋に囚われていました。


更に、ボギンが、おじいさんの夢の中にいたのです!
ボギンというのはとても悪い存在。よく、人間に悪さをします。これに対抗できるのは、唯一、猫だけ。夢の中という、最高の地の利を生かして魔法を駆使し、いとも簡単にボギンを追い出すことに成功する猫たち。
やがて、おじいさんも目を覚まし、猫たちは夢から追い出され、「第二倉庫」へと、戻ることになります。


駅で人通りを見ているレッドテイルは、おじいさんと何かあって、ここで一人佇んでいるのだと、そういう雰囲気をかもし出すのですが、何故おじいさんから離れてしまったのか、肝心のことは教えてくれません。
そのうちに人通りも少なくなり、「第二倉庫へ戻ろう」とワガハイを伴って帰ります。


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レッドテイルは紅葉として、再びおじいさんと暮らし、PCたちは、それぞれの生活へと、戻って行きました。


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狐につままれたような顔をして、何があったのかさっぱり分からないプレイヤー二人、得心顔で頷く人一人、何があったのかは分からないけれど、それを気にしないのが猫なんだと、満足する人一人。
GMは、どういうシナリオだったのか、結局、教えてくれませんでした。



『Cat』 - 猫をプレイする、ただ、それだけのゲーム。