給仕のおしごと

たまに早く起きたので、犬の散歩に行きました。
この犬と僕の接点は、散歩とその後の餌やりくらいしかないのできっと、僕は給仕とでも思われているに違いありません。


でも、たまにだからでしょうか、あまり悪くない。
誰もいない裏通り、殆ど車の見掛けない表通り、晴れていたし空気も冷たくて、吸うととても肺に心地いい。
子供の頃よく遊んだ公園にも、犬のお陰で久しぶりに立ち寄りました。懐かしい。ちょっと感謝しなくてはいけませんね。


遠目に見るその公園では、朝も早いと言うのに、小学生くらいの男の子達が遊んでいました。自分はこんなに早くから遊んだことは、子供の頃に無かったので、感心していたのですが、他にお年寄りが何人かいるのを見て、ああ、ラジオ体操なのかな、と当たりをつけます。
犬を追ってその公園に近付くと、一人の男の人がベンチにラジカセを置いてラジオのスイッチを入れました。予想通りです。


続々と集まって来るお年寄り。皆つつましく端の方に立って、ぐるりと公園を取り囲む。
我が愛すべき愚犬はそれより少し内側で、露に濡れた草をしきりに嗅いでいます。
ラジオのニュースも終わり、そろそろラジオ体操の時間。「ほら、行くよ」と紐を引いても脚を張って動こうとしない犬。
えっと、このまま、この公園に留まるの?


いよいよラジオ体操が始まります。
こんなに人に囲まれることが無いからか、皆で同じ格好をしているのが珍しいのか、その場でじっと、犬は皆を眺めています。
更にはその場に座り込む始末。
踊っているお年寄り、子供に囲まれて、犬の傍で何もせず佇む僕。恥ずかしくて顔を上げられなくて、しゃがみ込んで、犬を撫でてごまかしていました。


ラジオ体操第一が終わって第二が始まっても微動だにしない犬。
撫で続ける僕。
そんな様子を哀れに思ったのかどうか、おばあさんが体操を止めて犬を呼んでくれるも、全く動きません。


やっとその重い腰を上げたかと思うと、公園の中心の方へ、皆から更に見え易い所へ僕をいざなう犬。
お犬様。お願いです。もう、その辺で、勘弁してやってくれませんか。哀れな給仕にお慈悲を、くださいませんか。


結局ラジオ体操が終わって三々五々皆去り、公園に誰もいなくなるまで、彼は、一番長くそこに留まっていたのでした。
勿論僕も。