ホラーRPGから観た『着信アリ』

邪道ですが……。
クトゥルフ神話TRPG』と『ワールド・オブ・ダークネス』の視点でこの映画を眺めてみようかと。
と言っても当たり前の話に終始しそうですが。
本当は『ゴーストハンターRPG02』や『コール オブ クトゥルフ d20』なんかも出してくるべきかも知れませんが、僕があまりに知らないものでパスです。


やっぱりネタバレが入るので、『着信アリ』未見の方は読み飛ばしてください。


始め、主人公の中村由美は中西なつみの為に尽力します。
死の予告電話が掛かって来て怯えている時にそばにいたり。
友人に避けられようとしているのを見兼ねたり。
怯えて正気でないのに付け込まれてマスコミに食い物にされているところ、よくないと必死に説得したり。


それが、自分がいざ殺しの標的になってみると完全に無力です。
でもそれ故にか、前半にも増した行動力を示します。
協力者の存在も力になっていたんでしょうが、何もしない警察を罵り、打ち捨てられた病院にも勝手に入ります。
そのせいでどんどん怪異に遭遇して、どんどんパニックに陥ります。
協力者の山下弘はもっと凄くて、ほんの幼い女の子を(思わずですが)大声で恫喝してしまったりします。
その直後「ごめん」と謝っている辺りが微妙にリアル。
堕落判定に成功して〈道徳〉を失わずに済んだんだろうなあ。


先走ってしまいましたが、そろそろRPGの用語で見てみます。


クトゥルフ神話TRPG』はホラーのパニックの要素をよく表していて。

クトゥルフ神話TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

クトゥルフ神話TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

単純に、怪異に遭遇して正気度減少、登場人物がパニックに陥ります。
そして、一度や二度の正気度減少では完全に発狂しない所が巧く出来ています。
何度か「わざと」怪異に遭遇することで、「ここが俺の見せ場だ!」と主張できるわけです。
「恐い物見たさ」をよく再現してくれます。


でもやっぱり正気度に限りはあるわけで、セッション中ずっと見せ場を独占しているわけにもいきません。
複数人がプレイヤーというところも、よく解決しているルールです。


一方『WoD』はちょっと変わっています。

ワールド・オブ・ダークネス (Role & Roll RPG)

ワールド・オブ・ダークネス (Role & Roll RPG)

〈道徳〉という特性値が特徴的なゲームですから。
前半、友人の為に動く「いい人」な中村由美。
でも途中から、「自分の為に」色々なことを必死で行ない、その中には不法侵入といった軽い犯罪も含まれています。
協力者の山下弘も同様です。
さっき言いましたが、女の子を恫喝してしまったりするわけです。
姉の虐待によって、口が利けなくなってしまったような女の子を。


確かに、ホラー、ともすれば現実でもこういうものかも知れません。
命が脅かされ、しかも超常現象だからはっきりとした対抗策が分からない、手探りで色々やるしかないという状況だと、助かる為だからと何でもしてしまいそうです。
ちょっとくらい道徳的でないことをしても、いいじゃないかと思ってしまいそうです。
この「ちょっとくらい」というのがミソで、堕落判定の面白さに繋がっているわけです。


「命の危険に晒されると非道徳的な行ないでもでも取ってしまう。ホラーでは殆どがこういった現象を描いている」ということに気付いてルール化してしまったホワイトウルフは、中々凄いんじゃないかと思います。